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初めての自作スピーカー作り方講座

DIY的家作り LOG note > スピーカーDIY > 初めての自作スピーカー作り方講座 密閉型エンクロージャー


密閉型エンクロージャーの設計・容積計算方法


前回の「自作スピーカー作り方講座 実践編 フルレンジバスレフスピーカーの作り方」では、FostexのFF125WKを使って、メーカーの推奨設計でエンクロージャー(箱)を製作していきました。そのユニットを知り尽くしているメーカーが推奨設計を公表している場合は、それに準じるのが確実です。
縦横の寸法まで全く同じでなくても、箱の容積、バスレフダクトの断面積×長さを同じにしておけば、ほぼ間違いありません。自分の好みやスピーカーを置きたい場所のスペースに合わせて縦長にしたり薄くしたり等々、「箱の容積」「バスレフダクトの断面積×長さ」を変えない範囲でアレンジして良いのです。あまり極端なものは音に影響が出てきますけど、そういったアレンジの楽しみも自作スピーカーならではの良い部分ですね。

ただし、Fostexのようにユニットごとに推奨エンクロージャーを公表してくれている親切なメーカーは稀です。大抵はパラメーターを公表して終わりのところがほとんどですので、そのパラメーターを読み解いて、初めの「箱の容積」「バスレフダクトの断面積×長さ」を算出する必要があるのです。
本格的な設計は非常に高度で複雑な計算が必要ですが、ここでは電卓とメモ用紙があれば計算できる比較的簡単な設計方法を紹介します。

まず、設計に必要なユニットのパラメーターは以下のとおりです。

エフゼロ 最低共振周波数−通常エフゼロ、そのユニットの振動系部分が最も低く共振する周波数。ヘルツ(Hz)で表示される。foの表記がないときはFs(Resonance frequency)の数値で代用可能。
キューゼロ 共振尖鋭度−通常キューゼロ、foにおける共振の鋭さを表している指標。大きいと低音が出やすいが、制動不足になりがち(モコモコボーボーとした音、低音の立ち上がり/立ち下がりが悪い)となり、一般的には1ぐらいまでが良いスピーカーとされる。Qoの表記がないときはQts(Total Q factor)の数値で代用可。
エムゼロ 等価質量−通称エムゼロ、ユニットのうち振動する部分の質量。グラム(g)で表示される。コーンだけでなくボイスコイルやダンパーの質量に加え、空気抵抗も含まれている。moの表記がないときはMms(Moving mass)の数値で代用可能。
実効半径 実効振動半径。そのユニットの口径とは異なり、音を出すために動いているコーンなどの部分の半径。エッジの一部も含まれる場合が多い。aの表記がないときはSd(Effective piston area/実効振動面積)から逆算する。aとSdは、aが半径でSdがその円の面積という関係。Sd=a×a×3.14。

fo(エフゼロ)、Qo(キューゼロ)、mo(エムゼロ)、そしてa−−まずはこの4つをチェックしてください。
この4つの数値を使って、そのユニットに合ったエンクロージャーの設計方法、まず初めに密閉型エンクロージャーでの設計方法をご紹介しましょう。
早速設計を…と行く前に、より理解を深めるために密閉型エンクロージャーの概要について軽く説明しておきます。

<密閉型エンクロージャーの特徴>
ユニットを密閉型エンクロージャーに取り付けると、その名のとおり箱の中の空気が密封されます。そうすると、箱の中の空気のバネの力 (Sc:箱の中の空気のスティフネス)により、振動板が動きにくくなります。密閉型スピーカーの設計をするにあたり、ここが大きなポイントになります。

このSc(空気のバネの力)は箱の内容積に反比例し、ユニットの振動板面積に比例します。
つまり、ユニットが同じなら箱を大きくするほどScの力は弱くなり、また、同じ箱なら大きなユニットを使うほどScの力は強くなる、ということです。

そして、ユニットの振動板を動きにくくするこのSc(空気のバネの力)により、密閉型エンクロージャーに取り付けたユニットのfo値は上昇します。上昇したfo値をfocと呼び、そのスピーカーシステムのトータルの最低共振周波数を意味します。同様に、Qoも上昇してQocとなり、トータルの共振尖鋭度を意味するようになります。

そして、Sc(空気のバネの力)が強いほどfocは上昇し、Scの力が弱いとfocはfoに近づいていきます。
つまり、ユニットが同じなら箱を小さくするほどfocとQocは上昇し、箱を大きくするほどfocとQocはユニット本来のfoとQoに近づいていく、ということです。
さらに言葉を変え、これを平たく言うと、密閉型エンクロージャーの場合、箱の容積でスピーカーシステムとしての基本的な低域特性が決定する、ということになります。

<密閉型エンクロージャーの設計方法>
さて、では実際にどのくらいの容積にすれば良いのでしょうか。
容積が大きいほどfocは下がりますが、同時にQocも下がってしまいます。Qocすなわち低域端付近の共振が小さすぎると低域の音圧を稼げず、いわゆる「低域ダラ下がり」のスピーカーになってしまいます。(右図青線)

逆に容積が小さすぎればfocとQocが極端に上昇し、低域端付近が盛り上がった不自然な音となります。(右図赤線)

一般的には、Qocが0.7ぐらいの時に音圧の最大平坦が得られると言われています。(右図黒線)
密閉型エンクロージャースピーカー自作 Qoc特性グラフ

エンクロージャー容積とfoc、Qocはそれぞれ相関関係にありますから、ユニットが決まり、Qocが決まっていれば残りの箱容積とfocは計算で導くことができます。
Qocを0.7として密閉型エンクロージャーの内容積を計算してみましょう。

箱の内容積をVとすると、次の計算式でVが求められます。お目当てのユニットのfo、Qo、mo、aの値を入れて計算してみてください。
スピーカー自作 密閉型エンクロージャー計算式

上の式のαというのは次の計算式で求めます。Qocは今回は0.7ですね。
スピーカー自作 密閉型エンクロージャーQ計算式

内容積Vが出たら、そのスピーカーシステムでのfocも計算してみましょう。
密閉型foc計算式


いかがでしたか。
妥当な結果が出てきましたでしょうか。
実はこの計算、いろいろなユニットで計算してみれば分かりますが、ある意味で完璧ではありません。
世の中には様々なタイプのユニットがありますので、そんなユニットに合わせて普通に計算すると、とてつもなく大きな箱になったり、非現実的なくらい小さな箱になったりしてしまいます。
また、Qoが小さいユニットでは、focが上がり過ぎる(=低音が出ない)、という残念な結果になることもしばしばです。
そのユニットが密閉型に向いていないといえばそれまでですが、今回、Qocを0.7で計算したことを思い出してください。
Qocは0.7が音圧最大フラットと云われていますが、実は0.5が臨界制動、聴感上は1.0くらいまで良いとも言われています。
ですので、Qocの値をだいたい0.5〜1.0の範囲でスライドさせて、出てきた容量とfocの値を見ながら適当なところを探ってみてください。
その範囲内を大きく外れなければ問題はないですし、また、そこまでのQocの範囲があれば箱容量もかなり融通をきかせられるはずです。
密閉型エンクロージャーならではの緻密で素直な音質のスピーカーがあなたを待っていますよ!



さて、以上が密閉型スピーカーの設計・自作の概要です。
続いて次回はバスレフ型エンクロージャーの設計について解説しようと思います。今しばらくお付き合いください。

自作スピーカー作り方講座 バスレフ型エンクロージャーの設計 へ続く